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コレステロールと中性脂肪の基準値が変更されました

基準値の記載が変わりました。

血液検査のデータを判断する際のめやす 「基準範囲」の表記 が、4月から変更に なりました。今までと、測定方法が変わったわけではないのですが、日本臨床検査標準協議会・基準範囲共用化委員会が2019年に作成した基準範囲を検査機関が取り入れて、20234月以降の検査結果は、新しい基準値をもとに結果が記載されるようにしたのです。全国の医療機関で、同様な表記の変更を行っているみたいです。

(一社) 日本臨床衛生検査技師会のホームページには「医療の地域連携システムの構築とマイナンバー制度の導入に伴う「国民の健診検査データの活用」など、医療機関における検査データの統一が求められることが考えられ、これらの臨床検査情報を正確かつ有効に利用するためには、その統一の判断基準が必要であり基準範囲の共用化が望まれています。別添の共用基準範囲をご覧の上、日本臨床検査標準協議会(JCCLS)共用基準範囲の採用についてご高配賜りますよう、お願いいたします。」という記載があり、それに準じて全国の検査機関が、基準範囲の記載を変更したのではないかと推察しています。

今のところ、当クリニックが依頼している検査機関、株式会社エスアールエル(SRL)では、4月から脂質4項目だけ基準値を変更しました。今までの尿酸の基準値は、あくまでも痛風患者さんに対する管理目標値なので、新しい基準値の方が理にかなっていると思いますが、今回は変更になっていません。

いずれにせよ、これは、多くの方に混乱を招いています。基準値というのは、正常値ではないことに注意しなくてはなりません。いわゆる健常者(普通に日常生活を送っている自覚症状がない人たち:基準は下記に記載しています)を基準個体として、その人たちの検査結果の分布をもとに作成したものが基準値です。要するに、今の日本人の平均的な数値であると考えてよいでしょう。この数字は、疾患予防を考えた目指すべき数値ではありません。

I. 臨床判断値(管理目標値)


予防医学的に考えた場合、基準値よりも「臨床判断値」 の方がより重要です。

項目 新しい基準値 臨床判断値(管理目標値) 根拠となるガイドライン
尿酸 変更なし 7.0 以上は高尿酸血症 高尿酸血症治療ガイドライン
中性脂肪(男性) 40-234mg/dl 150 以上(空腹時)は高TG血症  随時では175以上 動脈硬化性疾患予防ガイドライン(2022年版)
中性脂肪(女性) 30-117mg/dl 150 以上(空腹時)は高TG血症  随時では175以上 動脈硬化性疾患予防ガイドライン(2022年版)
HDL コレステロール(男性) 38-90mg/dl 40以下は低HDL血症 動脈硬化性疾患予防ガイドライン (2022年版)
HDL コレステロール(女性) 48-103mg/dl 40以下は低HDL血症 動脈硬化性疾患予防ガイドライン (2022年版)
LDL コレステロール(男性) 65-163mg/dl 140 以上は高LDL血症 動脈硬化性疾患予防ガイドライン (2022年版)
リスク評価により基準が異なる
LDL コレステロール(女性) 65-163mg/dl 140 以上は高LDL血症 動脈硬化性疾患予防ガイドライン (2022年版)
リスク評価により基準が異なる

II. 基準値の求め方

いわゆる健常人をどのように定義するかは難しいところです。下記の基準を満たさない人たちを健常人として定義し、統計をとったのです。

 1) BMI≧28

2) 飲酒量(エタノール換算)≧75g/日

3) 喫煙>20 本/日

4) 定期的な薬物治療

5) 妊娠中または分娩後 1 年以内

6) 術後、急性疾患で入院後 2 週以内

7) HBV, HCV, HIV のキャリア

この基準は、ある程度の肥満を許容し、飲酒や喫煙習慣にも大きな制限を設けておらず、かなり緩い基準です。実際上、あまりに厳格な基準を設けると、対象者の人数が減ってしまって、よい統計値を算出できなくなる懸念があったので、このような基準が使われたそうです。1日に75gのアルコール接種は、日本酒3合を毎日飲んでいる人も健常人に含まれるのは、ちょっと疑問ですけれど。

健常者の測定値(基準値)中央 95%の区間を基準範囲を統計的に算出するのです。測定値が正規分布であれば、その平均値mと標準偏差σから m±1.96σ として基準範囲を計算します。正規分布でない時には、全測定値をいったん正規分布に変換してから、その中央95%の区間を求めるという方法をとっています。

例えば悪玉コレステロールといわれる LDLコレステロールの基準値が 70-139mg/dl であったのが65-163mg/dlに変更されましたが、これは決して、正常範囲が広がったわけではありません。基準範囲は「正常範囲」ではないので気をつけなければなりません。

 

 項目名

 

 

中性脂肪

 男性:40〜234mg/dl
女性:30〜117 mg/dl

50〜149 mg/dl

総コレステロール

 142〜248 mg/dl

150〜219 mg/dl

HDLコレステロール

 男性:38〜90 mg/dl
女性:48〜103 mg/dl

男性:40〜86 mg/dl
女性:40〜96 mg/dl

LDLコレステロール

 65〜163 mg/dl

70〜139 mg/dl

III. 基準値は、人並みということ?

例えば健常人の血圧を例に説明します。1961年には、60歳代の健常日本人の血圧は平均で160/88mmHgでした。それが、2016年では、140/83mmHgになりました。国を挙げて、国民の血圧を積極的に低下させたことが、今日の脳卒中を激減させた理由だと思っています。今の常識でいえば、160は明らかに高い数値ですが、その当時は多くの方の血圧はそのくらいで、みんな高いから異常とも感じていなかったのです。脳卒中予防のための血圧は125未満(正常値)でありますが、その当時の基準値は160ということになるのです。

IV. 基準範囲の記載が変更になった理由

全国の医療機関において、基準範囲がまちまちとなっている点を統一するためだそうです。日本全国どこに行ってもいつ測っても同じ基準で検査結果を評価できるような基準値が必要だったということのようです。これは、あくまでも検査を行う検査機関の都合であって、患者さんのための基準値ではありません。ですから、私は、臨床医の立場からは、この基準値を検査結果に記載することは混乱のみを招くだけであって、あまり意味のあることではないと思っています。

V. 病気の予防とは異なる考え方

基本的に検査は、病気の予防のための数値目標への達成を調べるために行うことが多いです。生体の異常を発見するためには上記の考え方でもよいのですが、予防のための基準値という概念の場合は、この基準値は不適切です。今回の基準値の変更は、あくまでも検査を実施する側からの基準です。

VI. 臨床判断

今までの表記と変わったのは脂質です。他の項目も変更される可能性があるみたいです。るのは尿酸値やコレステロール値などです。 これらの数値を評価する場合には、これまで通り、動脈硬化学会や高尿酸血症のガイドラインの基準を用いるべきだと思っています。

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