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パンデミックの終焉

オミクロン株に対するワクチンの効果

ファイザー社は2021128日に、次のような報告をホームページで行っています。

In vitroの予備研究において、ファイザー-BioNTech COVID-19ワクチン(コミナティ)の3回の投与は、オミクロン変異体(B.1.1.529系統)を中和することがわかりました。しかし、2回の投与では中和力はかなり低下していたことも判明しました。

データは、コミナティ(ファイザー社ワクチン)の3回目の投与により、オミクロン変異体に対する中和抗体価が2回の投与の25倍に増加することを示しています。ブースター投与後の抗体価は、ワクチンが従来株を防御するのと同様な効果を発揮すると期待できる抗体価であると思われます。

さらに、CD8T細胞によって認識されるスパイクタンパク質のエピトープの80%は、オミクロン変異体の変異の影響を受けないので、ワクチンの2回の投与でも重症化を防ぐ効果はあると考えられます。当社は引き続きオミクロン用の変異体に対するより効果的で、持続時間が長いワクチン特異的が、3月までに利用可能になるように、開発を進めているそうです。

Pfizer and BioNTech Provide Update on Omicron Variant | Pfizer

悲観的な報告

その一方で、ファイザー社製のワクチンにより作られるオミクロン株に対する中和抗体価は従来株やデルタ株に対する抗体価の1/10-1/40程度であったという報告もあります。中には、抗体価が測定感度以下、つまりほとんど抗体が作られなかったという報告もあります。

さらに、ファイザー社製のワクチンによる3回(ブースター)接種後における中和抗体価の報告は、もっとショッキングです。ブースター接種後、2週間後で、従来の37分の1しかなく、3ヶ月後では多くの検体が測定感度以下になったそうです。たとえ測定可能であっても24.5分の1とわずかであったそうです。

また、南アフリカからの報告では、変異株の中で最もワクチンが効果を示しにくいといわれているベータ株に対してでさえ、ファイザー社製のワクチンは、従来株にの1/3の中和抗体を産生したのですが、オミクロン株に対する中和抗体は1/41であったそうです。さらに、オミクロン株と同じスパイクタンパク質を持つ、疑似変異ウイルスを用いた中和試験でも同じような報告がされています。

実験系の違いや使用された血清の採取時期(感染やワクチン接種から採血までの期間)が、実験によりさまざまで、結論を出すには至りませんが、オミクロン株に対する中和抗体価は回復期血清で従来株の1/8.4-1/582回接種後の血清で従来株の1/5-1/127、ブースター接種後の1ヶ月の血清で1/2.5-1/18報告されています。これらの結果はあくまでも血清中の中和抗体のinvitro(試験管内)での評価です。重症化予防効果は、細胞性免疫が大きく関与するといわれていますので、オミクロン株に対するワクチン効果が期待できないと早合点してはいけません。

薬の効果

オミクロン株においては、抗原性の変化により、SARS-CoV-2に対するモノクローナル抗体を用いた抗体医薬品の効果への影響も懸念されています

オミクロン株の分離ウイルスやオミクロン株で認めるスパイクタンパクの変異を持つ疑似ウイルスを用いたモノクローナル抗体による中和試験の暫定結果が報告されています。つい最近わが国でも承認された薬、ソトロビマブ(ゼビュディ)は、オミクロン株で認めるスパイクタンパクの変異を持つ疑似ウイルスに対して中和活性を維持しているそうです。

一方で、抗体カクテル療法として注目を浴びたカシリビマブ・イムデビマブ(ロナプリーブ)は、オミクロン株の分離ウイルスに対して中和活性を失っているそうです。

バムラニビマブ・エテセビマブ、チキサゲビマブ・シルガビマブも、オミクロン株で認めるスパイクタンパクの変異を持つ疑似ウイルスに対しての中和活性はないということです。

また、オミクロン株は、一度かかっても、再び感染する再感染リスクが、今までの株よりも高いことが指摘されています。

オミクロン株の特徴

マサチューセッツ州ケンブリッジのVenkySoundararajanたちの研究者グループが、次のような発表をしました。オミクロンの変異は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)と一般的な風邪を引き起こすコロナウイルス(HCoV-229E)に同時に感染した宿主の中で起きた可能性がある。オミクロン株は、HCoV-229Eと同じ遺伝子コードを共有しているそうです。今までの新型コロナウィルスの変異株では、このような共有現象はなかったとのことです。

つまり、新しい変異株は、普通の風邪ウィルスと新型コロナウィルスの混血児のようなものなのでしょう。

研究者たちは、オミクロンがSars-CoV-2およびHCoV-229Eに「同時感染」した個体で変異が生じたと推察しています。彼らは、患者の胃腸組織と呼吸器組織で2つのウイルスを検出したそうです。彼らは、「ゲノム相互作用」、つまり遺伝物質の交換が生じて、オミクロン株が出現したのではないかと述べています。

そのために、オミクロン株は「人間の宿主により容易に入り込みやすくなり」、我々の免疫システムをすり抜ける能力が高くなった可能性があるのではないかと推察しています。

彼らはまた、オミクロン株の遺伝物質を、伝染性が高く世界中に蔓延した他のSars-CoV-2変異体(デルタ変異体を含む)と比較しました。彼らは、オミクロン株が26の変異を有していることを突き止めました。

参考文献VenkatakrishnanAJ,AnandP,LenehanPJ,SuratekarP,RaghunathanB,NiesenMJM,SoundararajanVOmicronvariantofSARS-CoV-2harborsauniqueinsertionmutationofputativeviralorhumangenomicorigin

オミクロン株は今までのコロナとは違って軽い?

入院治療が必要な患者の割合が、従来の変異株よりも少ないという報告がイギリスと南アフリカから出ました。どちらの研究でもオミクロン株感染による入院はデルタ株感染による入院よりも少ないことを示しています。英インペリアル・カレッジ・ロンドンのオミクロン株分析でも、同株による感染では、症状がデルタ株よりも軽いことが示唆されています。これは、既感染やワクチン接種の有無という因子で調整しても同様な傾向を示していたそうです。

「オミクロン株は肺炎を起こしにくい」という研究

欧米では、今のところオミクロン株による患者さんで酸素療法をどんどん投与しないといけないパニック水準にはないようです。詳細な報告を待たないと何とも言えないのですが、デルタ株と比べて肺炎例が多いというデータはなさそうです。

ヨーロッパで急速に患者数が増えてまだ2週間が経過していないため、今後肺炎の症例がたくさん出てこないかどうか注視が必要です。

実験室レベルでのデータがいくつかあります。たとえば、ヒトの肺を用いてオミクロン株を感染させた香港の研究グループの実験によると、オミクロン株は従来株やデルタ株とは違って気管支で複製されやすいものの、肺ではさほど複製されないことが分かりました[i]。また、イギリスの別の研究グループにおいても、デルタ株と比較してオミクロン株では肺の細胞を傷害する度合いが軽いことが示されています。

従来株やデルタ株と比べて、オミクロン株は肺炎を起こしにくいのかもしれません。肺胞は酸素を取り込む重要な場所ですが、ここが障害されにくいと、中等症II以上になりにくいと言えます。

英ケンブリッジ大学も、オミクロン株は肺の細胞に入り込みにくいことを示しました。



統計データからわかること

ちなみに、統計データを見てみると、下記のような数字が見つかりました。ほかの国でオミクロン株が流行する前の新型コロナの感染者数と死亡者数を、最近の感染者数と死亡者数と比較することができます。イギリスでは、2021年の2月には1日に19658人の感染者が出て、同じ日の死亡者数は132人でした。乱暴な計算ですが、死亡者数を新規感染者数で割ると6.7%となります。フランスは、4月にピークを迎え、12.7%という数字になりました。南アフリカでは、3.3%でした。それが、今年の12月は、0.09%、0.18%、0.39%という数字になっています。過去のピーク値は、死亡者数が最も多かった日の数字であり、その時の新規感染者数を便宜的に分母にしただけなので、本当の意味の死亡率ではありません。しかし、かなり多くの方が死亡したということは間違いありません。それに比べると、最近の新型コロナの死亡率が極端に低くなっているということは明白です。これは、ワクチン接種が進んでいること、再感染の方が多いということも関連していると思いますが、オミクロン株自体が軽症化していることを示唆しているのだと思います。

多くの国で新規感染者が増加しているにも関わらず、規制強化をしないのは、軽症化しているという多くの状況証拠に基づいて、政策的な判断をしているのかもしれません。

楽観してはいけない

世界保健機関(WHO、本部ジュネーブ)のスワミナサン首席科学者は202112月20日、新型コロナウイルスの新変異株「オミクロン株」の感染が他の新型コロナと比べ、軽症となると結論付けるのは「時期尚早」と警告したと伝えられています。インペリアル・コレッジ・ロンドンの免疫学者、ピーター・オープンショー教授も、初期の兆候ではオミクロン株がそれほど深刻ではないことが示されていたとしつつも、まだ楽観すべきではないと警鐘を鳴らしています。

WHOはオミクロン株の重症化について、「まだ限られたデータしかない」として明確な判断は示していません。WHOのテドロス事務局長は同日、オミクロン株について「ワクチン接種を済ませた人が感染したり、新型コロナの感染後に回復した人が再感染したりする可能性が高くなっている」ので、一見軽症化しているように見えるだけなのだという解釈も公表しています。

パンデミックの終焉

一般的に、ウイルスはより感染しやすく進化するにつれて、重症化を引き起こしやすい特徴を「失って」いきます。もしかしたら、オミクロン株は、新型コロナが、普通の風邪に変化する前兆なのかもしれません。これは、パンデミックの終焉を意味しています。まだ、断定的なことは言えませんが、そうなることを強く願っています。

オミクロン変異株の流行、パンデミックの終わりを示唆-南ア研究 - Bloomberg

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