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SARS-CoV2に対する抗体検査

SARS-CoV2に対する抗体検査

最近、新型コロナウィルス(SARS-CoV2)に対する抗体検査が話題になっております。

 テレビなどのメディアで解説されていることが多いと思いますが、十分な説明がなされていないこともあると思うので、改めて説明します。

免疫とは

私たちは、常に外界から病原微生物の侵入の危険に曝されています。その病原微生物とは、ウィルス、細菌、寄生虫などです。これらの病原微生物は、口や鼻、あるいは傷口、粘膜などから侵入し、体内で増殖し、生体の機能を犯します。この病原微生物に対して、私たちの生体は防御する機構が備わっております。それが、免疫というシステムです。神様が作ったこの免疫システムは、体内に侵入した病原微生物を攻撃し撃退するという素晴らしい能力を持っているのです。免疫には、もともと持っている自然免疫(非特異的な免疫)と、ある種の病原微生物に対して特に防御するための獲得免疫の2つがあります。私たちが、今話題にしているのは、コロナウィルスに対する獲得免疫です。さらに、その免疫システムには細胞性免疫と液性免疫という2つがあります。今回測定するコロナウィルスに対する抗体は液性免疫の中で活躍します。体内に侵入した異物は、特殊な細胞により取り込まれます。これが免疫反応の始まりです。この特殊な細胞として樹状細胞やマクロファージという細胞が知られています。

 

1)      細胞性免疫

 

皮膚や外界に触れる鼻腔や、腸管粘膜にある樹状細胞と自然免疫を司るマクロファージが病原微生物のたんぱく質をとりこみ、それをT細胞が認識できるように加工してヘルパーT細胞という免疫細胞を活性化させます。ヘルパーT細胞には1と2の2つのタイプがあり、ヘルパーT細胞1は、マクロファージを活性化させて、さらに細胞障害性Tリンパ球:キラーT細胞)に指令を出し、病原体を攻撃します。

 

2)      液性免疫

 

もう一つのヘルパーT細胞であるヘルパーT細胞2は、サイトカインと言いう物質を放出し、リンパ球の一種であるB細胞が形質細胞という抗体を作る細胞へ分化させます。形質細胞は樹状細胞やマクロファージが提示した抗原を型として、抗体を作ります。抗体は、その抗原に特異的なタンパク質です。ちょうど、抗原と抗体は、鍵と鍵穴のような関係に譬えることができます。病原体である抗原に対応した抗体があれば、抗原と抗体が反応して、その抗原に特異的な反応(病原体への攻撃)を引き起こすことができるのです(抗原抗体反応)。

 

この抗体(タンパク質)は、免疫グロブリンと呼ばれています。免疫グロブリンには5種類のものが知られています。B細胞の一部は、抗原の情報を記憶しているメモリーB細胞となって、再度の感染の際には、最初の反応より迅速に、抗体を産生することができます。抗原と結合した抗体は、抗体には、ウィルスに結合することで感染力や毒性を失わせる作用(中和作用)を持つものがあります(中和抗体)。そのほかに食細胞を活性化させる作用などが知られています。


免疫グロブリン

1)      Ig

免疫グロブリンの中で、最も多い免疫グロブリンです。血漿中に約1.2g/dLくらいあります。感染すると、後述するIgM抗体が最初に生成され、そのあとにIgGの抗体が作られます。この抗体は、感染が治癒した後にも残存します。病原体を無毒化する中和抗体という抗体もこのIgGに属しています。この抗体の存在は、過去に感染したことがあるということを物語っています。

2)      IgA

粘膜にある免疫グロブリンです。

3)      Ig

免疫グロブリンの中で最も大きな分子を有しています。病原体が体内に侵入したときに、生体防御のために、最初に作られる抗体がこのIgMです。ですから、感染初期に検出されますので、今感染しているか否かを判断するのに役立ちます。しかし、実際には、後述するgG抗体と同時期に検出される場合もあるので、注意が必要です。

4)      Ig

血漿中には存在する量はわずかで、その役割も十分に解明されていません。

5)      Ig

アレルギーの時に増加する抗体は、このIgEという免疫グロブリンです。喘息や花粉症などのアレルギーを有している方では増加しています。

コロナウィルスの抗原と抗体

1)      抗原

今まで、抗原という言葉が何度も出てきましたが、少し解説します。ウィルスは細菌と異なり、自分の細胞を持っていません。遺伝子情報(RNADNA)だけを持っているのです。その情報はヌクレオカプシッドというタンパク質の殻で守られています。新型コロナウィルスは、さらにその周りにエンベロープという膜で覆われています(アルコールや界面活性剤はこのエンベロープを破壊し、ウィルスを不活性化して消毒します)。このタンパク質は、生体では異物として認識され、それを排除するために免疫反応が起きます。生体が異物として認識するこのたんぱく質を抗原(異物として認識されたタンパク質)と呼びます。樹状細胞やマクロファージは、異物を抗原として形質細胞に示し、抗体を作らせるのです。

2)      抗体

コロナウィルスの抗体が、罹患してからどのくらいしたら陽性化するかについては、24名のPCR検査陽性患者を調べた報告があります。それによると、症状発現から平均12日目(最短7日,中央値12日)で、IgM抗体が陽性化し、平均11.6日(最短7日,中央値12日)でIgG抗体が陽性化したと報告されています[i]。抗体とウィルスの中和活性は相関し、特にIgGと強い相関があったという別の報告もあります[ii]285人のCOVID-19患者の検討では、発症後19日目までに100%の患者で抗ウィルスIgG抗体が認められたと報告されています[iii]

血液中にコロナウィルスのIgG抗体が存在すれば、過去にコロナウィルスに罹患した可能性が高いと考えることが妥当であるとお考えになるのがふつうであると思います。

米国インディアナ州の小児透析施設の研究[iv]では、PCR検査陽性患者1名からの無症候性の感染の実例を報告しています。この施設では、13名の患者と25名の医療従事者(看護師11名、事務員4名、医師10名)のうち、発熱などの症状を呈した2名を除く23名中10名が症状の発現なく、3週間後に抗体陽性になったと報告しています。症状を呈した2名のうち1名はPCR陰性であったが、3週間後に抗体陽性になったということです。無症候性の感染を示唆すると同時に、PCRは陰性であっても抗体陽性になることがありうるということを示しています。今のところ、COVID-19の場合、IgM抗体もIgG抗体もほぼ同時期から検出されるようになるみたいです。必ずしもIMが先行するとは限らないようです。感染経過中にIgMが検出できない場合も報告されています。IgGIgMの直後から増え始めて発症2週間後ぐらいにはほとんどの感染者で測定可能な量になるとされています。よって、ほとんどの場合、感染して2週間後にはIG抗体が血中に存在すると考えてよいと思います。



[i]高久ら.新型コロナウイルス肺炎患者における抗体検査陽性化時期の検討.日本感染症学会ホームページ(4月28日公開)

[ii] K. K.-W. To, et. al. Temporal profiles of viral load in posterior oropharyngeal saliva samples and serum antibody responses during infection by SARS-CoV-2: an observational cohort study. Lancet Infect Dis, March 23 (online), 2020

[iii] Q.-X. Long, et. al. Antibody responses to SARS-CoV-2 in patients with COVID-19. Nature Med, April 29 (online), 2020.

[iv] Hains et al,. Asymptomatic Seroconversion of Immunoglobulins to SARS-CoV-2 in a Pediatric Dialysis Unit.

抗原検査と抗体検査

検査を行うことにより、体内に抗原や、抗体があるか否かを調べることができます。これが抗原検査と抗体検査です。今、体内に抗原があれば、ウィルスがいるということになります。抗体があれば、ウィルスが過去にいたことを示しています。もうウィルスが消えていなくなっていても、抗体は残っているので、ウィルスが現在いるのかいないのかはわかりません。

1)      抗原検査、PCR検査

抗原検査の場合、ウィルスが沢山存在する検体を調べなくてはなりません。現在、鼻からの分泌液を採取して調べる方法が用いられています。しかし、体内にウィルスがいても鼻の中にはいない場合もあり、抗原検査で陰性であっても、ウィルスの存在を否定できるものではありません(偽陰性が少なからず存在する)。ですので、疑わしい場合にはPCR検査をしてさらに確かめなくてはならないと言われています。

PCR検査は、抗原ではなく、検体の中に存在するRNAを増幅して、検出する検査です。この検査にも抗原検査よりも頻度は少ないですが、偽陰性の問題があります。

2)      偽陽性の問題

また、ウィルスがいなくても陽性に出てしまう場合(偽陽性)もあります。非常に数は少ないですが、全くゼロではありません。99.9%という高い精度の検査であっても、逆に言えば0.1%に偽陽性がでるということになります。10万人に検査をすれば、病気でない100人に陽性がでてしまうのです。新型コロナウィルス感染症(COVID19)は、10万人に10人くらいの有病率(20205月下旬の東京)なので、ほとんどの人は感染していません。それなのに、東京の人1000万人全員に検査をすると1万人の陽性が出てしまうということになってしまいます。99.99%という精度であっても、1000人の偽陽性が出るのです。臨床検査の大事なことは、検査を何のために行うかという目的を明確にすることです。検査する必要がないのにやみくもに検査を行うことは、混乱と不安を招くだけです。偽陽性が、完全にゼロではないという事実を、私たちは忘れてはいけません。

抗体があれば感染しないのか?

IG抗体の中和抗体は、病原体を防ぐ作用があると考えられています。しかし、再感染する事例も報告されています。この再感染は、抗体の効果がないから再感染したのか、再活性化したのか、ウィルスの変異によるものなのか わかっていません。また、抗体も中和抗体の存在が必要で、なおかつその抗体も十分に存在しないと予防効果がないと考えられています。よって、感染の予防に対して抗体の有効性は不透明です。つまり、感染してIgG抗体が確認されたからといって、絶対に再感染をしないということにはならないのです。

当クリニックでの抗体検査実施予定

今後、当クリニックでも検査精度について十分に検証し、信頼度が高い検査方法であると判断したら、その限界、意義を十分にご理解いただいた上で、無症状の方を対象に、この抗体検査を当院で実施する予定です。